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第17回 長谷川 幸雄さん

(2011.2.13・2.27放送)

自分の細胞を使って新たなに再生させる夢のような治療法である再生医療が今実用化に向け動き出しています。

彼は、最先端の技術を使ってその技術を可能としようとしています。
細胞シートは障害のある細胞に貼るだけで、治療ができてしまいます。
患部に貼るだけで治療ができてしまう魔法のシートの秘密とは。

今回は人類の希望を乗せた細胞シートによる再生医療の現状に迫ります。

細胞シートを心臓や目の角膜に貼りつけると、その臓器が元気になるという画期的な技術の詳しい話をお聞きしたいと思います。

最先端技術である細胞シートを使って、再生医療の実現とその普及を目指して頑張っています。
再生医療とは、自分の細胞を使っていたんだ臓器などを再生させる画期的な治療法です。
現在、骨や皮膚など様々な部位で研究され、実用化を目指しています。
中でも長谷川さんが実用化に向け取り組んでいるのは、細胞シートを使った角膜の再生です。
角膜は芽の表面を覆う薄い組織です。

その輪部と言う部分に、細胞の再生を司る幹細胞があります。
これは自己免疫疾患や火傷などによって作れなくなってしまうと、目の表面が白く濁ったり、視力を失う可能性があります。
これまで、この病の有効な治療法は確立されていませんでした。

この写真は細胞手術を行う前と行った後の目の様子です。
ご覧の通り結膜部分の充血が綺麗なり、角膜の濁りも和らいでいるのが分かります。

この角膜の再生に使われる細胞シートは、患者自身の細胞から作られます。
口の中から角膜に必要な幹細胞を取り、それをおよそ3週間培養させ、増殖させます。
すると、細胞は一枚のシート状になります。
これが細胞シートです。
そして、培養してできた細胞シートをシャーレから外し、そのまま目の上に貼りつけるだけで治療ができます。
一枚の細胞シートをきれいにはがせるという技術は、世界にもセルシードしかできません。
その秘密は温度応答性培養皿という特殊なシャーレにあります。

これまでは、細胞を培養し、シャーレ全体に細胞を増やすことができても、それを一枚のシートとして綺麗にはがすことができませんでした。
それに対しセルシードは、シャーレの底に温度応答性ポリマーというナノレベルの高分子を敷くことで綺麗に剥がすことを可能にしたのです。
これが、細胞シートを可能にした秘密です。

長谷川:細胞シートを作るには、細胞の事をわかっていなければならない、温度応答性ポリマーを作るには、高分子の事をわからなければならない。そして、実際に細胞シートを移植し、その後の経過も診なければならないといういろいろな視点が必要になります。
私は、理学、薬学、医学の3つの知識を持っています。そのため、基礎的な所から応用部分まで広い視点で観る癖がついていると思います。

菅原:世界で行っている再生医療は注射器で懸濁液を注射することが主ですか。

長谷川:そうです。その方法ですと、注射した箇所から広がってしまいます。細胞シートですと、その場所に留まり様々な成長因子が出る事で継続的にできる特徴があります。

長谷川さんが再生医療に興味を持ったのは今から15年前のことです。
東京女子医科大学の岡野教授が開発した世界初の細胞シート工学に出会います。
これが長谷川さんの運命を変えました。
その細胞シートを実用化させようと、セルシードを設立します。
岡野教授と共同で研究を進めた結果、細胞シートの実用性を可能にしました。

菅原:角膜の病気にはいろいろな病名が付きますよね。どの病気を対象としているのですか。

長谷川:角膜幹細胞疲弊症です。角膜の表面を作っている幹細胞がダメになってしまう病気です。
実際の治療も非常にシンプルです。トータルの時間が30分ぐらいで終わってしまいます。

培養した細胞にはタンパク質が含まれているため、これまではタンパク質分解酵素を使用していました。
しかし、この酵素を使うと、細胞をはがすことができても細胞同士をくっつけている成分も壊してしまうため細胞がバラバラになってしまいます。
温度応答性培養皿は温度応答性ポリマーを使用する事で、このポリマーは水に溶け伸びます。
細胞シートとの接着力が弱くなるため細胞シートを傷つけることなく取り外すことができます。

菅原:細胞シートは作ることは簡単だったけれど、取り外すのが難しかったんですね。

長谷川:その通りです。温度応答性ポリマーは37度の時は油っぽくなり細胞をくっつけます。温度を下げると水溶性となり細胞がくっついていられなくなりはがれます。

菅原:幹細胞はどこから取るのがいいのですか。

長谷川:角膜と食道がんで食道を取ってしまった後の再生も口腔粘膜を使用しています。食道がんを取り除いた後すぐに再生シートを貼ると炎症反応が治まるので、治癒効果が高いんです。
心臓の機能を再生させるためには、筋芽細胞を取り心臓の上に貼りつける事を行っています。
貼るだけなので、患者さんの負担も少なくなります。
動物実験で非常に良い結果が出たので、臨床実験を行いました。その患者さんも3年以上たっているので、安全性と有効性も維持されています。
組織臓器に対して最適な細胞シートを選ぶ必要があります。
実は、組織臓器は細胞シートの積み重ねでできています。皮膚もそうですね。
ほとんどの組織が層状構造になっています。
そのため、細胞シートで大きな臓器も再生可能になってきます。

菅原:特許を取るには非常に時間がかかりますよね。認可を取るには大変ですよね。

長谷川:開発にお金がかかりますね。将来的には機械化が可能です。人間が大きな建物のクリーンルームに入る必要が無くなります。製造コストを下げて機械化を目指しています。
原理が非常にシンプルなので、比較的容易にできると思います。そうすることで多くの人に治療を受けてもらえるようにしたいと考えています。

菅原:日本での実用化に向けて何か秘策とかありますか。

長谷川:国内で全てを行うのはお金がかかります。今、フランスで事業化を目指しています。欧州で許認可を得て日本に取り入れた方が早く認可を得られるのではないかと考えました。
日本で一番早く確立する方法がこの方法でした。
アメリカでもヨーロッパでもいいものを取り入れて日本が良くなれば良いと考えています。

日本では医学などで新しい開発をするのは非常に大変なことです。しかし、最終的に日本に持ってくることで10年後、20年後かもしれませんが日本でも治療が受けられるようになります。この知識をいち早く知っている事で、まわりの人の助けになります。時代を超える素晴らしい技術でした。