トップ > 西尾 剛さん(2012年3月11日・3月25日放送)

第30回 西尾 剛さん

(2012.3.11,3.25放送)

今、世界中で広まっている干ばつ、地球温暖化によって降水量が減り乾燥してしまった地域では、農地の塩害問題に苦しめられています。

また鉱山や工場の近くの土地では、カドミウムによる土壌汚染の問題も深刻です。

そんな中、私たちの生活を支えるこの大地の汚れを、あるものを使ってきれいに再生しようとする男がいました。東北大学教授、西尾剛。彼が台地の浄化に使うもの、それは植物。

土壌汚染された土地を植物で浄化する方法とは。塩害に強いアブラナの能力とは。今回は、日本をはじめ、世界の土壌問題を解決する可能性を秘めた植物の力について迫ります。

菅原:東日本大震災の後、すごく大きな問題になったのは、一つは塩害です。それともう一つは農地にまかれてしまったセシウム137。この2つに共通しているのは、土壌汚染です。そしてこの土壌汚染の中で農業をいかに再生するかということ、このテーマは非常に深刻であり大きな問題ですが、ここでこの問題を解決するのに、ファイトレメディエーションという新しい方法がにわかに注目されています。

この方法を農地に取り込もうという研究を具体的にされている東北大学の西尾先生を今日、お呼びしておりますが、どんな話が聞けるのでしょうか。楽しみにしていただきたいと思います。

今日のゲストは、東北大学教授、西尾剛さん。

西尾さんは東北大学で農学について学んだ後、農林水産省の研究機関に就職。そこで植物の遺伝子研究を始めました。

以来、地球環境に役立つ独自の植物をつくるため、40年以上にわたり遺伝子研究を続けている植物学の第一人者です。

今日は、そんな西尾さんに、塩やカドミウムなどに汚染された土壌を再生させる力を持った植物について、詳しく伺っていきます。

菅原:西尾先生の専門というのは育種と聞いているんですけど、これは種を育てると書くんですよね。これって、具体的にはどんなことをされるんですか。

西尾:品種改良のことを専門用語で言いますと、育種というふうに言います。以前ですと、見かけでいいものを選んで、増やして栽培するということをやってきたんですけれども、今はDNAの塩基配列を分析して、いいものを選ぶというような技術が発達してきましたので、そういう研究をやっているところです。

菅原:そうすると、日本は世界一イネのDNAに関する研究が進んで、そしてそれ塩基配列を全部見つけて、世界に無料で公開したというのを聞いたことがありますけれども、その延長上の研究なんですかね。

西尾:そうです。塩基配列は決めたんですが、それぞれの品種の特性、この品種は冷害に強い、この品種は弱いというふうな特性が、どういう塩基配列の違いによって決まっているかというところまではまだじゅうぶん分かっておりませんので、ほぼこれが原因らしいというようなものを明らかにしてきたわけですが、その塩基配列の違いを簡単に分析する方法を開発して、実際の育種、品種改良の場面で使おうというようなことをやっております。

菅原:じゃ、3度とか4度とか5度って低い温度でイネを育てる種を植えておいて、あったかいところで育つDNAとか、じゃなければ染色体を比較して、どこが違うのかなというのをまずよくつぶさに見るという感じですか。

西尾:そうですね。そのためには、寒さに強いという特性にかかわる遺伝子が染色体上のどこにあるかというのを明らかにする。それで強いものと弱いものを交配して、遺伝子とその特性の対応付けをするというような研究をしています。

菅原:今の時代は、世界中が温暖化して、温暖化イコール砂漠化だったりして、そして砂漠化イコール塩害だったりして。だからそれに強いDNAのあるあらゆる作物を何とか私たちは作んなきゃいけないって、地球上の科学者がみんな頭をそろえて、同じことを考えている時代ですよね。

西尾:そのとおりですね。

菅原:特に作物の遺伝子組み換えということでは、アメリカが最も世界中で進んでいる。農薬に強いとか、そういうのをわざと遺伝子組み換えでつくって、そして農薬と種をセットで売ると。種が採れないようにつくっておくとかね。そこまでの技術が、もうできあがっているわけですが、その世界においては、日本はこのDNA研究は結構進んでいる方なんですか。

西尾:遺伝子の研究というのは、日本はかなり進んでいるんですが、その遺伝子を採って別の植物に入れると、そういう技術のところがほとんどアメリカで開発された方法によるものですから、その技術を使うと特許の制約がかかるということで、日本ではDNAを分析していいものをつくるという従来の方法を、より科学的にやろうというようなところで研究しています。