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第54回 青木 義男さん

(2014.03.30放送)

地球のはるか上空に広がる宇宙。この宇宙の神秘を解明するため、人類はさまざまな挑戦を繰り返してきました。
そんな中、あのアーサーCクラークが書いた有名なSF小説「楽園の泉」の中に登場する「宇宙と地球をつなぐ、未来の乗り物=宇宙エレベーター」の実現を真剣に目指している男がいました。
日本大学理工学部教授 青木義男。青木さんは「宇宙エレベーター」の実現に向けて、邁進する研究者です。

今日は青木さんに、人類史上初めての取り組みである「宇宙エレベーター」のしくみや、その壮大な実現プロジェクトについて、くわしく伺っていきたいと思います。

菅原:私たちが、宇宙を目指すといっても、イメージできるのは、宇宙ステーションに民間の人たちが行くことができるのか?できないのか?というくらいなのですが・・・。

青木:これが、「宇宙エレベーター」の全体像です。
まず、宇宙エレベーターの立地条件イメージとしては、赤道に近い、南の島の上空になります。
南の島からアースポートと呼ばれる海上の基地まで移動して、そこから宇宙に向けて、ケーブル状の宇宙エレベーターで上がっていきます。
その長さは、36000キロ。今ある国際宇宙ステーションは、高度400キロの軌道上で、非常に地球に近いところを飛んでいますが、宇宙エレベーターの先にある宇宙ステーションは、地球から高さ36000キロに、作られます。この高さにステーションを作るというメリットは、静止軌道と呼ばれる高さで、地球の自転の速度と、この軌道上を回る周回速度が、同じであるために、自転に左右されず比較的安全が確保できるためです。
この宇宙ステーションは、皆さんが想像するものとは少し違っているかもしれません。
細長い空間の中に、人間の生活に必要なさまざまなエリアを持っています。
その一方で、太陽系の彼方まで行くための基地という位置づけにもなるので、研究施設もあります。
そして、それぞれをエリアで管理していこうというのが、大林組と考えた宇宙ステーションのイメージです。

菅原:ところで、宇宙ステーションに行くには、アースポートのような海上に浮かんだ島から、宇宙エレベーターに乗り込んでいくようですが、それはなぜですか?

青木:宇宙エレベーターに乗り込む基地であるアースポートは、南の島から少し離れた海上に作るのは、その先にある宇宙エレベーターが宇宙ステーションとつながったヒモのような構造になっており、月や太陽の引力の影響を何らかの形で受けるためです。その上、スペースデブリと呼ばれる宇宙のごみや隕石の危機にさらされたりする可能性もあります。これらの危険に遭遇した時、ヒモと一緒に追随して逃げるためにも、海上がいいと考えました。

菅原:つまり、宇宙ステーションもエレベーターもヒモ状の構造で、いろいろな危険を回避するために「ゆれる」のが当然で、浮かんでいるほうがより安心という訳ですね。ところで、この宇宙ステーションは、私たちが映画や現実で見ているものとは、違うような気がするのですが。

青木:皆さんがご覧になっているのは、横型の宇宙ステーションだと思います。私たちが宇宙エレベーターと共に考えているのは、縦型の宇宙ステーションです。これは、2重らせん構造になっています。そのため、つながっているヒモに対して、縦にも横にも自由に動きやすい構造になっています。

菅原:現在は、静止宇宙衛星を飛ばせる時代です。その静止軌道から、地球に向けて、ヒモのようなものをたらし、再生エネルギーで宇宙エレベーターをするすると動かすといったイメージですね。

青木:静止軌道上、つまり36000キロの距離のヒモをたらすのですが、そのためには、100,000キロのヒモが必要になります。なぜなら、地球の軌道を回るためのバランスを保つためです。上に36,000キロ、下に36,000キロのヒモをたらすことで、いろいろな重さが地球側にずれてしまわないように、やじろべいのようにバランスをとるわけです。

宇宙エレベーターは、遠心力を利用して、他の惑星にも行ける?その鍵は、日本人の開発した「カーボンナノチューブ」。

菅原:先ほどのイメージ図には、ヒモを伸ばした先にも小さな宇宙ステーションのようなものが存在しているようでしたが。

青木:宇宙の中で、地球と地球の軌道を回るときにかかる遠心力と重力の関係を考えると、この小さな基地が必要になります。イメージとしては、ハンマー投げのハンマーのようなものです。おもりが地球、アンカーがヒモの部分です。これが、地球と一緒の自転と回っていときに、途中できりはなします。すると。ハンマー投げのハンマーのように小さい基地は飛んでいけます。

菅原:つまり、つながっているヒモをタイミングよくはずすことで、地球を回っている遠心力をパワーに変えて、他の惑星の軌道に非常に簡単にのせらるという訳ですね。
ところで、宇宙エレベーターのヒモ、つまりケーブルに使われている素材は何ですか?

青木:実は、宇宙エレベーターの実現が難しいのは、このケーブルが問題になっています。地球というおもりをつけたりするケーブルですので、大変強靭なものが必要です。実際にこれを計算してみると、今まで地球上にあるものでは、その強度にたえられるものがありませんでした。
ところが、1990年代に飯島澄夫博士が発見した「カーボンなのチューブ」という鉄の100倍以上の強度や硬さがある材料で、一躍、宇宙エレベーターが実現性を帯びてきました。

菅原:日本人である飯島博士が発明した「カーボンナノチューブ」は、それまでのカーボン製品とどこが違うのですか?

青木:「カーボンナノチューブ」は、従来のものよりも結晶の組み合わせが非常に安定しており、万能とは言いすぎかもしれませんが、いろいろな使い道を考えられるものです。その上、電気を通しますし、紫外線や放射線からの劣化などもほとんどないと言われています。

菅原:今、カーボンは注目されています。これは日本が「炭」に親しみがあるので、感覚的に「カーボンナノチューブ」を作り上げるのに有利だったのでしょうか?

青木:そうですね。その上、電子顕微鏡をのぞきながら、緻密な世界で作り上げる技術は、日本人化学者の得意技の一つでもあります。

菅原:「カーボンナノチューブ」は、今どれくらいの長さまでのばせる技術があるのですか?

青木:今、シンシナティ大学のシャノン博士のグループでは20~30mmの長さまで作ることが出来るようになりました。ようやく、センチの世界まで到達したところです。
そして、連続的につなぎ合わせるのに、接着剤のような別の材料を入れると弱くなってしまいます。そのため、「カーボンナノチューブ」だけで、長いものをつくる技術が、この先必要になってきます。

菅原:今求められている100,000キロを一本の「カーボンナノチューブ」で作れるということが、将来的には一番大事なネックファクターになると思うのですが。

青木:飛行機などに使われている「カーボン繊維」と呼ばれているものは、日本の繊維メーカーが「技術革新」の中で作り上げてきたものです。
「カーボンナノチューブ」をつなぐ技術もできない話しではないと考えています。

菅原:小説「下町ロケット」の中にあるような、日本の下町にある中小企業の技術を集めてくれば、夢を共有しながら、驚くほど緻密で、工夫があり、安くできる可能性が出てくるのでしょう。

宇宙エレベーターの開発メリットとは?どんなものなのでしょうか?

菅原:今のロケットは、人間を乗せるのも危険であり、高価です。その上、ロケットを切り離して、本当に小さなロケットが大気圏を出て行くのを見ていると、費用のほとんどがエネルギーに使われているような気がします。無駄が多いと思います。
しかし、宇宙エレベーターは、違うコンセプトなので、無駄がないように思えます。

青木:宇宙エレベーターを開発するメリットは3つあります。
一番目は、太陽光発電で非常に大きなエネルギーを集めて、宇宙からケーブルという送電線で、地球でも使っていこうという点です。静止軌道上は、24時間陽が当たり続けるので、安定した電力を供給し続けることができます。
二番目は、津波や大雪などの気象観測が非常に重要になってきているので、世界全体で気象観測をモニタリングができることです。今、地球がどういう状態で、この先どうなっていくかを、早い段階で、高い精度で予測しなければなりません。その意味で、高い場所からの定点観測なってきます。そのため、ケーブルの途中に観測基地を作り、24時間365日観測をし続けることができるのは、大きなメリットでもあります。
三番目は、100,000キロもあるケーブルの途中には、宇宙を回っている鉱物資源があります。NASAによると、宇宙を回っている隕石には貴重なレアメタルを含んでいるものがあるという話しもありますから、そういったものをうまくキャッチして、鉱物を取り出すために地球に運んでくることができます。

プロジェクト実現のために、次の世代に引き継いでいく。いろいろな分野と共同が必要である。

菅原:プロジェクトが長いというのは、そこで一人が「ノーブル賞」とって終りではなく、次の世代の人がそこに関わっていかなければなりません。青木先生は現在57歳ですが、あと何年くらい現役でこのプロジェクトに関わっていかれるのですか?

青木:あと10年と考えた時に、その中で後継者をどれだけ育てられるかが大きな課題だと考えています。宇宙エレベーターで、世界の人たちの議論した本が出来ました。我々が宇宙エレベーターを実現できないのであれば、どのように後に継承をしていくかという中で、課題出しが非常に大切であるということをまとめたものです。

菅原:ご自分の世代で、実現しないことがすばらしいことなのですね。宇宙エレベーターをつくりあげるためには、宇宙ごみの問題をどのように解決していくか?それも、この本の大きなテーマと伺いました。
宇宙開発が、強いもの勝ちからシフトする時代にきているのですから、ごみ散らかし放題のロケット打ち上げという方向の開発をみんなで、とりかえようという「のろし」になりますね。

青木:宇宙ごみの問題は、非常に重要な点です。

菅原:そう考えると、いろいろな意味で、宇宙エレベーターへの取り組みは、非常にすばらしいと考えます。ぜひ10年、20年と頑張ってください。

 

 

番組最終回によせて
日本の将来は、科学や技術において、明るいということを実感することが出来た番組を作り上げてきたと考えています。ここに登場した一人一人の技術者や科学者の人たちは非常に大きな夢を描きつつ、成功の体験をされた方々ですが、お金を目的にしていない部分が共通点だと思います。
だからこそ、一つのことを30~40年かけて追求することができるのではないか。そこが、日本人の特色であり、すばらしさであり、それを許してくれる日本の文化の土壌というものをすばらしいと思わされた4年半でした。どうもみなさんありがとうございました。