トップ > 中川恵一 さん(2010年1月10日・1月14日放送)

第4回 中川恵一さん5

(2010.1.10,1.14放送)

菅原:私たちみんな、まだがんじゃない人は、がんの本も読まないし、がんの秘密もまだ手に入れてない人だらけで、なってからみんな大騒ぎするだけで、時間がないから、あっという間に周りの声にかき消されて、それでベルトコンベヤーみたいになっちゃうわけですよね。

中川:そうなんです。要するにちょっと備えておく。実は、手前みそですが、週刊新潮で『がんの練習帳』っていう連載をさせていただいてまして、練習帳ってどういうことかっていうと、2人に1人ががんになる。だから、それに備えてちょっと練習をしましょう。例えば結婚する前に付き合ってみるとか、小学生だって運動会の前には練習するじゃないですか。ところが、がんについては全然練習しない。いきなり本番なんです。

菅原:それで、いきなりがんだっていう宣言されて、店頭に走ってって、そこら辺の本をみんな買いあさって、ワーッて読んで、余計パニクる人が多いんですよね。自分がたとえ死ぬにしても、そのプロセスの中で判断ミスを犯さなかったというだけで、ずいぶんと納得できますよね。

中川:そのとおりなんです。医療がどんなに進歩したって、人間が死ななくなることはないんです。ですから、要するに最適の医療を、できれば最高、少なくとも最高に近い医療や、あるいは、それに対する行動をとったら、それ以上できないわけだから、それをするためにはちょっと知っておくっていうこと、軽く練習しておきましょうよ。それが本当に必要だと思いますね。

今、ある小学校の先生が372人の小学生に、「人は死んで生き返ると思うか」ってアンケートした。そしたら、はい、生き返りますと答えたのは34パーセント。

菅原:大変な数字ですね。

中川:分からないが32パーセントなんですね。

菅原:32パーセントが分からない? 分からないっていう答えもあるんですか。

中川:ええ。つまり、生き返りませんという正解は34パーセントだったんですよ。3分の1。

菅原:すごいですね。

中川:それほど子どもたちにとっては死ぬってことの現実味がなくなってるわけですが、なんでか。考えてみますと、一つは大家族制がなくなって核家族。東京の小学生なんかは、クラスで1人か2人しか、おじいちゃん、おばあちゃんと暮らしていない。残りは全部核家族。要するに生活の中に老いがないわけですよね。昔はおじいちゃん、おばあちゃんを見て、簡単にいうと、自分の老いの予習ができたわけじゃないですか。あるいは、そのおじいちゃん、おばあちゃんは、ほとんどおうちで亡くなってた。例えば今から50年前だと、8割以上の日本人が家で亡くなってた。私が生まれた昭和35年だって7割ですよ。いまや日本全体で85パーセントが病院死。東京だと9割ぐらいでしょうね。畳の上で死ぬなんて人はもう居ないわけなんですよ。病院のベッドで死ぬ。つまり、生活の中には、あるいは、意識の中には、死ぬってことはない。病院の中に隔離、あるいは、隠ぺいする感じ。

菅原:小学校、中学校のうちから、早いうちから、がんに対する予防教育をするっていうことは、私はすごく大事だと思いますが、その夢っていうのは、これから中学校の子どもたち全員にそういう教育の本を読んでもらうっていうことですか。

中川:そうです。がんのことを教える、あるいは、人が死ぬってことを教える。これは実は保健なんでしょうね、教科としては。しかし、保健の教科書をちゃんと通して教えている先生ってほとんど居ないと思う。結果的には体のことを日本人は知らない。特にがんのことを知らない。欧米の多くの国では保健と体育は別教科。日本は逆にそこはお金をかけてない。医療にもお金をかけてない。ご承知のようにアメリカの半分以下ですよね、医療費が。国民が体のことを習ってない。マーケットでいえば消費者が未成熟なんです。消費者が商品知識がないマーケットっていうのは、いい商品ができないですよ。医療も同じです。患者さん方、あるいは、市民の方が、ある程度の知識を持っていれば、今の日本のようにお医者さんが偉そうなこともいわない。マーケット、つまり日本の医療そのものが良くなっていくと思うんですね。

菅原:そのために中川先生の役目はますます大きくなって、ますますお忙しくなると思いますけど、本当に頑張っていただきたいと思います。ありがとうございました。

中川:ありがとうございました。