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ここで菅原は、ギュッシング地域にあるバイオガス施設に案内してもらうことにしました。

ここにあるバイオ燃料は牧草とトウモロコシからできています。

施設内のパネルを使って、ケグロヴィッツさんが説明してくれました。

ケグロヴィッツさん:牛は、飼料としてはトウモロコシと芝生を食べています。牛の胃の中ではバクテリアが発生してその力で食べた餌を発酵させます。この施設ではその牛の胃の中で行われている同じ仕組みでガスを発生させています。

菅原:ここで使われている菌はウシの胃とは関係ないですよね。

ケグロヴィッツさん:同じではないけれども、似ています。

菅原:一番メタンを作りやすい菌を探してきて、それで発酵させているわけですね。

ケグロヴィッツさん:特に探したわけではなく、いろいろな物でメタンガスを発生させる事ができます。どうしてトウモロコシと牧草を使っているかというと、かつてこの地域の農家は農業だけでは暮らせない状態になり、他の町に出て行きました。そして、農地だけが残されたのでその農地を有効利用する為、トウモロコシを育て始め、トウモロコシと牧草をバイオガスの燃料として使うようになりました。

菅原:トウモロコシは、食用で使わないんですか?

ケグロヴィッツさん:食用としては使いません。食用ではないので細かな管理をしなくても良いのです。

そして、案内された場所はガスを使った発電所。

このバイオガス施設では、燃料となるトウモロコシと牧草をまず集積所で発酵させ、次に発酵槽に投入します。最後にメタンガス発生槽に移され、ガスができます。そして、さらにそのガスを使ってガスエンジンを回し、電気と熱を作っているのです。熱はお湯として家庭に供給され、電気は国に売電しています。

ケグロヴィッツさん:この施設を作るのに200万ユーロかかりました。

菅原:そのお金は誰が払ったのですか。

ケグロヴィッツさん:銀行からお金を借りたり、そのあとは投資家が投資をして、今は売電の売上でお金を返しています。

国に売電しているということですが、この施設だけでどれくらいの電気をまかなえているのでしょうか。

菅原:ここで作られる電力は、この市の中で使う電力の何%ぐらいですか。

ケグロヴィッツさん:こちらでは1年間に4,000メガワットの電気を作って、大体一軒家では1年間に4メガワットを使用しています。そうすると、1年間でおよそ1000戸分に相当します。

菅原:1家族が3人だとしたら(人口約3800人のギュッシング市の電力を)ほとんどカバーできるぐらいですよね。

実際にギュッシング地域で生活をしている人達は再生可能エネルギー100%を目指す政策をどう思っているのか。菅原はある家庭を訪ねました。

出迎えてくれたのは環境保護に力を入れるため、ウィーンからギュッシング地域に引っ越してきたシャーベルさん一家。

菅原:子どもの教育にも、ウィーンで暮らすよりこちらのほうが、野山で遊ぶということができて、自然の子どもが育ちそうな気がしますけれども、どうですか。

シャーベルさん:子ども達も自然を満喫して、解放感を感じてるし、すごく才能がのびる育ちやすい環境にあると思います。

菅原:この地域はエコに取り組む姿勢がすごく前向きで、そういう意味では、今のお二人の暮らしとぴったりですけれども、ここに暮らしていることによって、お金をかけずに豊かに暮らせるという実感はありますか。

シャーベルさん:経済的にお金をかけないというより環境保護に貢献したいという気持ちで生活しています。そして、近所の方達も環境保護に責任を強くもっています。例えば、この地域では有機野菜で野菜や肉を作ったりして、それを物々交換するという考え方もあります。

菅原:この地域が、この10年の間にエコの取り組みでどんどん変わってきたり、いろいろな意味で、エコを通じて発展してきたと聞いているのですけれども、その実感はありますか。

シャーベルさん:ここでは、バイオマス施設やエネルギーセンターで働いている人達が多いので、環境保護に対する考え方がみんな強くなってきました。そして昔出稼ぎに行った人達がまた戻ってくるということも多くあります。

そこに暮らす人々にとって何が一番重要かを考える。自然を守っていくことに決めたオーストリア、そんなオーストリアの旅を通じて菅原は何を思ったのでしょうか。

菅原:本当に日本のお手本になる国だと思いました。メタンガスを使った再生エネルギーシステムは、すでにオーストリアで100箇所以上で実践されてるわけですから、このテクノロジーをそのまま日本に持ち込むことができれば、研究開発コストを削減することができます。特許を払ったとしても十分お釣りがくる。また、お湯を通した暖房を街全体に張り巡らせても、それほどコストが高くないことを教わりました。そう考えると、日本のバイオマス政策やメタンガスのエネルギー政策が遅れていることを実感しました。

国家予算もGDPも上位ではないにもかかわらず、オーストリアでは国民全員が力をあわせて自国を愛し、自然を愛し、エコに取り組んでいます。そして使命感を持って子供や孫にどんな自然を残せるのか、日々考え実践していることが感動的でした。閉鎖的な共同体である日本の「再生エネルギーは高い!!」という考えを打ち破ってくれる幸せな自信に満ちた笑顔が国中にあふれていました。