菅原:60、70になったら、車いす、みんな使ってる人、居るでしょう? 途中からね。そういう人たちだって、行きたくなくなっちゃうんですよね。
岸:引け目を感じちゃうというかね。それと、人に迷惑をかけそうだなと思っちゃうわけね。
菅原:トイレ行くときでも、あの大きなトイレ室があったとしても、1人で移動して、あそこに座れるまで訓練するの、大変ですよね。これ、だから、家の中でも便利だし、外へ行っても、この方が便利ですよね。
岸:ただ、私も長年、こういう福祉機器やってて得た結論は、障害者の方は自立したい、究極的には。人のお世話にならなくて、自分で何でもやりたい、そんな機械があるといいなとみんな思っていますね。
菅原:これは、乗っていると幸せな気持ちになりますね。
岸:農業機械の会社に入って、新しい商品の開発の仕事をしてました。それで、私の娘が6歳のときに髄膜炎という病気にかかって、脳障害になったんですね。それから、私のお世話になった最初の会社を辞めて、娘のリハビリをしながら、食べていかなきゃいかんので、何か仕事をやろうと。で、自分の好きな、物づくりの仕事を始めた。
菅原:髄膜炎というのはどうなんでしょうか。
岸:私の娘の場合は細菌性。ですから、抗生物質で菌を殺すことはできるんですが、残念ながら脳は大半、障害を受けてから、そういう治療、やっと入ったということで、かなり重度の脳障害の状態で、一命はとりとめたんだけども、後が、植物人間状態に最初なったんです。脳障害を治せるという情報が入ったのはアメリカのフィラデルフィアにある研究所の所長が日本へたまたま来て、そういったスピーチ、やってました。それを聞いたときに、これしかないと思って、娘をアメリカへ連れて行ったんです。 中脳障害の方はすごく多いんですね。よく、こういうふうに緊張されてる方が居る。ああいった方は典型的な中脳障害。その方の呼吸をよく観察すると、ほとんど呼吸してないような感じ。常に酸欠状態なんです。そういった方にきちっと正しい呼吸を教えてあげて、酸素がたっぷり体に取り込められれば、緊張はだんだん治ってくる。
菅原:普通になるんですね。
岸:格好も良くなるし、動きがしやすくなる。
菅原:ただの酸素欠乏状態なんだということはそのドクターは見抜いて、一緒にそういうことを見抜いた同士で、そのフィラデルフィアで治療が始まったわけですか。
岸:そうですね。脳障害の子どもたちは全員が、呼吸に問題があるということを発見したんです。じゃあ、子どもにどうやって呼吸を治していくかと。でも、そこはエンジニアが居なかったんですね。私が作ってあげようということで作ったのが、RM1000という呼吸機械です。
菅原:この可愛いお嬢さんは?
岸:これが私の娘なんですよ。
菅原:可愛い。楽しそうな。
岸:かなり美人に生まれたんだけど。この機械で酸素が入るともう、気持ちがいいから、顔も障害者に見えませんよね。
菅原:見えないですね。やっぱり、その酸素をはずしたときと、酸素をしてるときでは、酸素を入れてるわけじゃないけど、呼吸をお手伝いしてあげるだけで、十分な酸素が行くと体じゅう柔らかくなるし、脳も喜ぶし、細胞も喜ぶし、全身がうれしくなるわけですよね。
岸:常に苦しい呼吸、やっと呼吸してる状態の子が多いんです。それが、この機械で呼吸を楽にすると、こんなに幸せなこと、ないですよね。だから、当然、にこにこ笑って。
菅原:笑ってね。
岸:目も輝いてくるし、言葉も出てくるし。脳の活動がいい状態で情報をやると吸収が速いでしょう? 自分でアウトプットもインプットもどんどん上がってくるから、呼吸のトレーニングっていうのは脳障害にどんなに大きな効果があるかというのをその研究所が発見したのはすごいことだなと思って。
菅原:でも、またそれを具現化して、じゃあ、私がっていって機械ができちゃうのもまた天才。天才と天才の結びつきですね、これはね。