トップ > 松本 武さん(2012年4月8日・4月22日放送)

第31回 松本 武さん5

(2012.4.8,4.22放送)

菅原:本当に世界で初めてのシステム開発をされたっていうことだけで画期的ですね。

松本:われわれの事業の特色としてこういうふうな戦略を持ってやってるんですけれども、基本的には自分たちの作ったものを一貫体制、途中でいろいろな人の手をあまり入れることなくやれると、責任も自分たちで持てますし、商品の中身もちゃんとわれわれ見ることができる。

それと、それにかかわる必ず情報っていうのは発生するわけです。その情報を追っかけていくことが、将来的に自分たちの経営に反映させることができるっていうのと、そこから松本農園っていうのはどういう会社かっていう、そのアイデンティティーがうまく伝わると、一つのブランド化っていうものになるんじゃないかなっていうふうには考えています。

菅原:もう今既に、50ヘクタールの農地を自分たちで耕して、選別して、集荷して、箱詰めしたり洗ったり、そういうこと全部やるっていうことですよね。

松本:はい。自社生産比率を限りなく上げていこうということで、95%が自社生産になっています。

菅原:だけど、それってある意味、集荷場だとか、選別機だとか、いっぱい農協そのものが持ってるものありますね、本来。それを自社で持つっていうことは、プラスもあるけれども、そんだけ借金をして大きな工場を建てるっていうリスクもありますよね。

松本:当然イニシャルコスト掛かる場合は、支払の返済とかいろいろ絡んできますんで、それに対応できる体制が整えられるかどうか、そこまで計算して機材とか設備を導入するというふうなかたちでやってます。

菅原:その計算が農業の生産法人では一番大事な、何年で償却するんですか、いくら借りたら月々いくらの返済ですかっていうことが基本ですよね。

松本:例えば、選果選別の機械も入れたとしても、それが5年後10年後スタンダードで使えるものかどうか。例えば、故障したときに修理して使えるものかどうかっていうことをいろいろ考えはしますね。いわゆる普遍性っていうところを先にあるかどうか。そこをまず見ます。

菅原:あとはさっきの13桁。これは、家へ帰ってネットで調べれば、松本農園のこの野菜っていうんで、マップも分かれば、生産者名も分かれば、どのぐらいの農薬とか化学肥料を使ったとかそういうことも全部分かったら、それを買った人にとっては履歴が分かるていうことはもっとも大きな安心につながるから、若いお母さんなんかインターネット好きだしね。

松本:われわれ、実は、インターネットで情報は公開してるんですが、顔写真出してないんです。あえて顔写真でイメージを作るというよりは、われわれのやってることだけをとにかくお客さんにお伝えしたい。いろいろな食品に関する事件とか事故が起こったときに、その商品は大丈夫かなってお客さんも不安になるわけですね。アクセスのできる場をわれわれは常に365日提供する。これがわれわれの企業的な責任っていう部分もあると思ってますんで。

ああいうふうな情報をベースに、自分たちでどう工夫するかっていうのの場面が、ここで失敗したなとか、これがあったから成功したなとか、そういうことを見ることによって経営スキルを上げるっていうことには、非常に情報システムっていうのはやっぱり必要だというふうに思ってます。

ーー生産履歴管理を強化し、それを顧客に開示することが自社産の野菜の差別化につながり、なんと松本農園では一般的な農家では持つことが少ないスーパーなどに言い値で売れる価格決定権を手にしていたのです。

菅原:ある程度高い値段をしっかりと付けていく、それだけのブランドなんだっていうところはもう確立してるんですよね。

松本:そうですね。要は、どうしても若干価格が一般の農家さんよりは高めに設定するんですけれども、それはそこをある程度吸収するために、中間のマージンをできるだけ少なくするために、できるだけお取引さまとダイレクトなお取引ができるような環境作りでやってます。

菅原:とてもシステマティックで、まるで原価計算ができますよね。

松本:基本的に、生産原価がこの程度掛かるっていう部分はだいたいわれわれ把握はできてるんですけれども、やはり、今の農産物流通の中でよく見落とされがちなのは、自分たちが適正な利益を取るっていうことにちょっとちゅうちょするんですよね。お取引さまが価格をできるだけ安くっていうふうにいわれると、価格をどうしても下げざるを得ないっていうふうになるんですが、そのときにはわれわれとしてはどのくらいの利益を取りたいんだっていうことを明確に頭に入れておく。ですので、私どもはここ数年、農産物の価格っていうのはほぼ一定なんですよ。ですので、相場が上がって駆け引きで値段を上げたりとか、相場が安くなったからといって下げたり、そういうことは一切しないんです。

菅原:それも素晴らしいですね。年間のコストパフォーマンス考えたら、年間を通して同じ値段で買えるっていうことは一つの信頼のブランドですよね。

松本:農産物の価格っていうのは、商品の価値を計る部分においては非常に重要な要素なんですけれども、われわれも実は以前、有機、オーガニックもやってたんですよ。ところが、いろいろやっていくうちに一つ壁にぶち当たって、それは何かっていうと、結果的に有機で作ると単価が上がっちゃうんですよ、収量が落ちますから。要は、お金持ちだけが買えるお野菜になってしまう。われわれはあくまで社会的責任があるわけですから、できるだけリーズナブルで、かつ、そんなに手の届かない値段ではないっていうところにまず抑える必要がある。お金持ちだろうが、貧しい人だろうが、安心して食べられるものを提供するっていうことが重要だというふうに考えてますんで、そういう部分が比較的お客さまに認知されてきてますし、結構リピート率が高いのはそういったところにもあるのかなというふうに思ってます。

菅原:それはやっぱり、一番良心的に、一遍に大量にもうけるっていう方向じゃなく、こつこつと信頼を得る。とても伝統的な日本人の負けじ魂っていうか、武士道精神っていうか、そういうのに根差したお仕事ですよね。

松本:実はわれわれ、あの情報システムだけではなくて、いろいろな情報のエビデンスとなるようなものを持ってまして、国際認証なんですけれども、グローバルギャップという認証規格を取ってるんですね。情報システムだけが独り歩きをしてしまえば、情報っていうのはある意味加工されちゃう部分も出てくるわけです。われわれは、情報の客観性、正確性を裏側でちゃんと担保するために、そういう国際的な規格を取っていくっていうふうなこともやってます。